P--1345 P--1346 P--1347 #1御裁断御書 御裁断御書 祖師聖人御相伝一流の肝要は たゝ他力の信心をもて本とすゝめ玉ふ その信心といふは 経には 聞其名 号 信心歓喜 乃至一念とゝき 論には 一心帰命と判す 故に 聖人は論主の一心を釈して 一心といふは 教主世尊のみことを ふたこゝろなくうたかひなしとなり こ れすなはち真実の信心なりと のたまへり されは 祖師よりこのかた代々相承し 別して 信証院の五帖一部の消息に この一途をねもころに教へ玉ふ その 信心のすかたといふは 何のやふもなく もろ〜の雑行雑修自力のこゝろをふりすてゝ 一心一向に阿弥 陀如来 今度の我等か一大事の後生 おんたすけ候へと たのみ奉る一念の信まことなれは 弥陀はかなら す遍照の光明をはなちて その人を摂取したまふへし これすなはち当流にたつるところの一念発起平生業 成の義 これなり この信決定のうへには 昼夜朝暮にとなふるところの称名は 仏恩報謝の念仏とこゝろ うへし かやうにこゝろえたる人をこそ まことに当流の信心をよくとりたる正義とはいふへきものなれ  しかるに近頃は 当流に沙汰せさる三業の規則を穿鑿し 又はこの三業につきて 自然の名をたて 年月日 P--1348 時の覚不覚を論し 或は帰命の一念に妄心をはこひ または三業をいめるまゝ たのむのことはをきらひ  此余にも まとへるもの是有よし まことにもて なけかしき次第なり ことに 聖人のみことにも 身口意のみたれこゝろをつくろひて めてたうしなして浄土へ往生せんとおもふを自力 とまふすなりと いましめたまへり 所詮已前はいかやふの心中なりとも 今より後は 我わろき迷心をひ るかへして 本願真実の他力信心にもとつかんひとは 真実に 聖人の御意にも相かなふへし さてその上には王法国法を大切にまもり 世間の仁義をもて先とし うつく しく法義相続あるへきものなり      [右之通令裁断候条永本意不可取失者也]      [文化三丙寅年十一月六日]            [釈本如(花押)]